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「 四天王立像修復 」
千葉県の寺院よりお預かりした木造・四天王立像の修復報告です。
事前の調査で、四天王像はペンキのような塗料と顔料で塗り直されていました。おそらく、時代を経て彩色が剥がれ痛々しいお姿になってしまったお像を、どうにかならないものかと苦慮した当時の方々のご尽力のように思われましたが、尊様を著しく損ねてしまっていました。
さて、お像をよく観察すると、邪鬼の手足が無くなっていたり、玉眼(水晶で制作し、目に入れる技法)が損傷しているものもありました。木材の接合部の割れや緩みも見られ、重度の損傷であることがわかりました。
今回の修復では制作当時の尊容を第一にすることとして修復にあたりました。
慎重にペンキを除去すると、丁寧に彫刻された当初の造形と、この時代にはめずらしい漆下地が出てきました。
あれ?こんなに良い御像だったとは…。
以下に修復工程をまとめましたのでご覧いただけたら幸いです。
また、お顔や腕が入れ替わっているお像も確認できました。
文化財保存修復の観点から、あらたに彩色を施さず当初の造形を尊重した修復を行いました。
また、修復過程において体内から墨書が見つかり、制作者と制作年代が特定できました。
修復工程
1.
塗膜除去
ペンキは剥落しかけた彩色の上から塗られており、表面には凹凸ができていました。ペンキを専用の剥がし剤で慎重に取り除いていきました。塗膜を落とすと制作当時の彫刻面が現れ、丁寧に施された漆下地が確認できました。
2.
損傷状況
各部材は剥ぎ目の接着が緩み隙間ができていました。接着に使われた膠はすでに劣化して接着力を失い、 竹釘による接合でかろうじて形を保っていました。
3.
解体作業
各部材は膠接着、竹釘接合でしたが、膠は経年劣化により接着力を失い、竹釘によりかろうじて接合を保っていました。随所に隙間が見られたため構造面の修復のため一旦解体しました。
4.
毘沙門天 面部
毘沙門天の頭部は剥ぎ目の接着が緩んでいたため、一旦取り外し再接着しました。これにより玉眼の状態を確認できました。過去の修復で手を加えた痕跡が無く、制作当初の状態を保っていたため、そのまま閉じました。
5.
像内墨書
解体により持国天、広目天、多聞天の像内内刳り面に造像銘があることがわかった。この発見により製作者が断定され、おおよその制作時期が判明しました。
6.
組み立て
竹釘と釘穴を再使用し組み上げていきます
接着面はあらかじめパラロイド溶液を塗布し、将来の保存修復の際、完全に除去できるよう可逆性を持たせました。
7.
部材組み違えの修正
初見から造形的違和感が指摘されていました。接合個所の彫刻面の連続性や墨書きの符合から正しい組み合わせに修正ました。
8.
損傷箇所の補修
再組み立て後、剥ぎ目及び彫刻面の欠損箇所を木屎漆で充填成形しました。
9.
亡失箇所の補作・新補
持物を含め亡失箇所を像に合った造形を推測して檜材で新造しました。持物は各像の儀軌に則ったものを類例の作品の造形を参考にしながら制作しました。持国天の邪鬼は、後補の面部が桐材で制作され、他像と比べ造形的にも違和感があり、その像のみ彫眼であるため他像に合わせた造形・仕様に修正しました。
10.
玉眼の新補・嵌入
持国天は、玉眼が過去の修復でアクリル樹脂製に変えられており、現状は破損していたため水晶で新造しました。水晶の内側に黒目と金箔・血走りの彩色を施し、裏から真 綿を当て白目を表しました。桧材の当て木で押さえ、竹釘で固定し嵌入しました。
11.
玉眼の新補・嵌入 (邪鬼)
持国天の邪鬼の玉眼も新たに水晶を研磨して制作し、嵌入しました。
12.
修復箇所の彩色
木屎で補修した剥ぎ目、補作箇所を当初部分に合わせ天然顔料を用いて色調・質感の調整をして馴染ませました。
13.
金箔貼り
方座の制作・新補した光背・持物の金箔貼り
光背に付属する炎の彩色をしました。